Anonymousの活動分類

Anonymousというと、共通の理念や考え方に賛同する人々による緩やかな集まりであり、その活動内容は多岐にわたっていて、全体を把握するのが非常に難しいのが特徴の一つです。2010年頃までは "Chanology" と "AnonOps" の2つの大きなグループに分けて考えることもできたのですが、今やそう単純でもありません。
(このあたりの詳細については 2011年に書いたブログ記事「Anonymousは「ハッカー集団」なのか? - セキュリティは楽しいかね?」をご参照ください。また @ITに書かせていただいた記事「いまさら聞けないAnonymous(1/3) − @IT」もご一緒にどうぞ。)

そこで私自身は昨年あたりから、Anonymousの活動方法や目的などをもとに 4種類くらいに分類すると理解しやすいのではないか、と考えています。以下の図は昨年11月の自社セミナーで講演した際に作成したものです。内容を簡単にご紹介します。(セミナー資料はこちら(PDF)で公開されています。)


f:id:ukky3:20130302205955p:plain
(注:図の円の重なり具合や配置に特に意味はありません。)

(1) 祭り、釣り (2006年頃から)

もともと 4chan.orgから生まれたといわれる Anonymousにとっては欠かせない要素です。Prank Call, Raid, Troll, Lulzなどの言葉に代表される活動は今も続いています。最も初期のものとしては 2006年7月の Habbo Raidが知られています。

(2) デモ活動 (2008年頃から)

Anonymousが注目を浴びるようになったのは、2008年初めに起きたサイエントロジー(Scientology)に対するデモ活動からと言ってもいいでしょう。このとき生まれた Chanologyによるサイエントロジーへの抗議活動は現在も行われています。また 2011年9月から米国を中心に始まった、いわゆる Occupy運動 (Occupy Wall Streetなど)にも Anonymousは参加しています。

(3) サイバー攻撃 (2010年頃から)

2010年に PayPal, Visa, MasterCardなどへの DDoS攻撃、いわゆる Operation Paybackを実施した AnonOps。その後、世界中の政府機関や様々な組織に対する攻撃作戦を日々実施しています。昨年 6月には日本を対象にした OpJapanもありました。彼らは DDoS攻撃だけでなく、Webサイトを改ざんしてメッセージを掲載したり、侵入したサイトから不正に取得した内部情報を公開したりもしています。Anonymousによる事件として報道されるのはほとんどがこの AnonOpsの攻撃作戦です。逮捕されている Anonも大半は AnonOpsの活動に関わっています(逮捕された Anonに関する情報はコチラのサイトにまとまっています。)

(4) 情報収集、分析、リーク (2011年頃から)

Anonymousの中でも比較的新しい動きです。WikiLeaksに代わるようなリークサイトを立ち上げたり、単に情報をリークするだけでなく、取得した情報についての調査、分析を行った上でその結果をレポートとして公開したりしています。代表的なものいくつか挙げておきます。

Project PM
元 Anonymousの広報役である Barret Brownが中心となって進めていた調査プロジェクト。HBGary社への侵入によって得た内部のメール情報の調査がきっかけとなっています。Barret Brownは昨年逮捕されて 3件の罪に問われており、裁判が進行中です。

Anonymous Analytics
Anonymousが政府レベルの腐敗をターゲットにするのに対し、Anonymous Analyticsは企業内の不正行為に焦点をあてています。内部告発によって得たデータを単にそのままリークするのではなく、様々な独自調査を行ったあと、その結果を報告書として公開しています。2011年9月に最初のリリースがあってから、それ以降現在までに 3つの報告書が公開されており、いずれも中国系企業が対象となっています。公開ペースは決して早くありませんが、それぞれ十分な調査を行っているようです。
(Anonymous Analyticsについてはこちらのコラムの解説が詳しいです。)

Par:AnonIA
2012年から活動を開始した Par:AnoIA (Potentially Alarming Research: Anonymous Intelligence Agency) は、WikiLeaksに似たリークサイトの一つです。主に Anonymousのコミュニティから情報提供を受け、それをサイト上で公開するというスタイルをとっています*1。毎月数件のペースでリークを続けており、最近では 2月末に Bank of Americaに関する内部情報のリークを行っています。

TYLER
RetroShareというソフトウェアをベースにしたリーク用のプラットフォームを構築しているようですが、これまでのところ Aaron Swartzの自殺の際に JSTORのデータをリークしたことがあるだけ。しかもそのデータも過去に別のところでリークされたものでした。現在はあまり利用されていないようですが、今後使われていくようになるのかもしれません。


以上、Anonymousの主要な活動の分類について紹介しました。なおこれらはそれぞれを明確に区分できるものではありません。どの活動にも根底には 4chan由来の lulzが感じられたり、不正侵入で得たデータをリークサイトから公開するといった連携もあります。また同じ Anonが複数の活動に関わることももちろんあるでしょう。Anonymousの活動はますます複雑さを増しているようにも感じます。

Anonymousについてもっと詳しく知りたいという方は、コチラの記事に参考資料をまとめてあります。また昨年公開された Anonymousについての優れたドキュメンタリー映画 "We Are Legion: The Story of the Hacktivists" もあります。興味のある方は見てみてはいかがでしょうか。


We Are Legion (Official Trailer)

*1:情報ソースが明かされているわけではないので実際のところはわかりません。