NSAの監視プログラムに関する米政府の主張

Edward Snowden氏のリークによって大騒動となっている NSAの監視プログラムについて、今週、米国議会の上院や下院において米政府からの情報開示や、NSA長官などの政府高官による証言が相次いで行われました。これらの情報から、現時点でのこの問題に関する米政府側の主張をちょっと整理してみます。


−−−−
上院情報委員会に提出された文書や、PBSのインタビューでのオバマ大統領の説明によると、NSAの監視プログラムは大まかに次の2つがある。これらはその根拠となっている法律の条項から 215 program702 programなどと呼ばれている。

  • Section 215 of the USA PATRIOT Act にもとづくデータ収集 (215 program)
  • Section 702 of the FISA Amendments Act にもとづくデータ収集 (702 program)


これらのプログラムはいずれも

  • 法律によって規定された範囲内である (USA PATRIOT Act of 2001, FISA Amendments Act of 2008)
  • 議会によって許可されている (authorized)
  • 裁判所 (FISC: Foreign Intelligence Surveillance Court) によって承認されている (approved)
  • 司法省 (DOJ)と国家情報長官室 (ODNI)によって定期的にレビューされている

(だから問題ないと米政府は主張している。)


215 program はバルクで電話会社からメタデータ(電話番号ペアや通話時間などの通話記録のこと。通話内容は含まない)を収集しているが、このデータを検索するには対象者が海外のテロリスト組織の活動に関係するという相応の根拠が必要。根拠のないデータ検索は違法となる。実際に2012年の1年間にNSAによって調査が行われたのは300件未満。また記録されたデータは5年以内に破棄される。なお下院情報特別委員会の公聴会でのNSA長官の証言によると、NSA内でこの通話記録データベースにアクセスできる権限をもつのは20人のアナリストと2人の管理者の合計22人のみである。


702 program はバルクではなく、特定のターゲットに関するメールなどのコンテンツデータを都度収集するもの。テクノロジー会社に対して個別にデータ開示の要求を行う。米国外の非米国民の通信だけを対象としたもので、意図せずに収集された米国民のデータは適切に保護される。


215 programと 702 programの2つの監視プログラムによる成果として、2011年9月11日の同時多発テロ事件以降、これまでに20ヶ国で50件以上、米国内だけに限定すれば10件以上のテロ実施計画を未然に防ぐことができたとしている。この中にはニューヨーク市の地下鉄爆破計画、ニューヨーク証券取引所爆破計画などが含まれている。


−−−−
(補足事項)
今回の騒動は、Verizon Business Network Servicesに対して 3ヶ月分(2013年4月25日から7月19日まで)の通話記録をNSAに提出するように求める FISCの命令書 ("Top Secret")が The Guardian紙によってスクープされたことからはじまった。またその後、実は 2006年から 3ヶ月毎にこの裁判所命令が更新され続けていることや、AT&Tなど他の大手電話会社に対しても同様に行われていることなども報道された。(215 program)


続いてリークされた PRISM(US-984XN)に関する "Top Secret"資料によると、このプログラム(702 program) に参加しているのは Microsoft, Yahoo, Google, Facebook, PalTalk, AOL, Skype, YouTube, Appleの 9社*1。このうち Facebook, Microsoft, Apple, Yahoo! の 4社は政府機関へのデータ開示の件数を公表したが、情報開示にあたって政府から求められた条件によって、一般の犯罪捜査に関するものもすべて含めたおおよその件数のみが公開された。そのためこのうち何件が PRISMに関連するものなのかはわからない。一方、Googleは PRISM関連のものだけを個別に開示する許可を求めて FISCに別途申し立てを行っている。


PBSのインタビューにおいて「FISCは NSAからのリクエストを承認せず拒否したことがあるのか?」との質問に対して、オバマ大統領は直接質問に答えなかった*2。FISCの承認という司法によるチェック機能が実際に有効に働いているとは言い難い*3


テロを未然に防止したという成果についても、いくつかのケースではこれらの監視プログラムが決定的な役割を果たした場面もあるだろうが、すべてのケースではないだろう。プライバシーを脅かすような包括的な監視プログラムに頼らなくても、テロに対応できる方法は他にあるのではないだろうか? という当然の疑問が湧く*4。また監視プログラムの対象範囲についてもまだ曖昧ではっきりしない部分が多く、上記 2つのプログラム以外にも監視プログラムが存在する可能性はある。NSAは4つの監視プログラム(MAINWAY, MARINA, NUCLEON, PRISM) を運用しているとの報道もあり、それによると電話とインターネットの通信について、それぞれメタデータとコンテンツデータを取得しているとある。下院の公聴会では、NSAが 215 programで収集しているのは電話の通話記録だけだと NSA長官は証言しているが、一方で他の法執行機関は Section 215によってそれ以外の情報の収集も許可されていると司法副長官が証言している。


今後 Snowden氏からさらに機密資料がリークされたら、より詳しい内容がわかるかもしれない*5

(Snowden氏は香港での最初のインタビューの際に亡命を希望する国としてアイスランドの名前を挙げていたが、Snowden氏がアイスランド政府に対して亡命を希望すると非公式に打診していることが 6/18日にわかった。)

*1:プログラムに参加した順に記載。SkypeMicrosoftが、YouTubeGoogleがそれぞれ買収しているので実際には 7社。

*2:オバマ大統領は「リクエスト件数は驚くほど数が少ないんだ。」と質問をはぐらかした。

*3:Snowden氏は FISCを "rubber stamp"だと形容している。一方、NSA長官は「"rubber stamp"だとは思わない。FISCの連邦判事は素晴らしい仕事をしている。」と反論している。

*4:下院情報特別委員会の公聴会で FBI副長官は具体的に4つのケースを明らかにしたが、すでにこれらのケースにおいて監視プログラムの果たした役割について疑問が提示されている。

*5:NSAによる監視プログラムの全体像を把握することは難しいが、AP通信のこの記事が非常に参考になり必見。http://bigstory.ap.org/article/secret-prism-success-even-bigger-data-seizure

Remove all ads